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一般社団法人

日本ケアマネジメント学会


大島 一樹さん・ケアマネジャー

定山渓病院 在宅ケアセンター所長

 

【PROFILE】

おおしま・かずき

2001年星槎道都大学社会福祉学部卒業。一般企業に就職するも精神科ソーシャルワーカーとして精神科病院に転職。同じ法人内の認知症グループホームで相談援助職や管理者として勤務した後、2008年にケアマネジャー(介護支援専門員)として定山渓病院在宅ケアセンター、2017年に同所長に就任。この間、2009年に社会福祉士を取得。日本ケアマネジメント学会では、2019年に認定ケアマネジャーに合格し、現在、認定ケアマネジャーの会の理事を務める。


多職種連携のハブとして利用者だけでなく地域のニーズを解決する

ケアマネジャーが個々の利用者に関わるケアチームの要であることは言を俟たない。大島一樹さんは利用者を訪問するなかで隠れたニーズを引き出し、それに応えるためにケアチームを巻き込んでいくが、それだけでなく、地域の他の職場のケアマネジャーや多職種のハブとなり、地域課題を仲間とともに解決していく要ともなっている。

ケアマネジャーはたくさんの「よかったね」に出会えるのが魅力と語る。

 



認知症の祖父の思い出をきっかけに福祉の道に

――大島さんが福祉職を目指したきっかけはどういうことですか。

大島 私の祖父母は海沿いの町で漁師をしていたのですが、子どもの頃おじいちゃん子だったのです。祖父がまだ比較的若い時期に漁師を引退して一緒に住むことになったのですが、若年性の認知症になって精神科病院に入院することになりました。当時の認知症医療は今ほど充実しておらず、祖父は保護室に入れられることになりました。当時私は子どもだったこともあり、どうして祖父がそんなところに入れられるのかわからなかったし、会いに行きたくても看護師に止められたりということがありました。

このことが頭のなかにずっと引っかかっていて、進路を決めるときに福祉の仕事、人の話を聞く仕事に興味が湧いて福祉系の学部がある大学に進みました。

 

──卒業後は一般企業に就職されたそうですね。

大島 そうです。民間企業に一度は勤めたのですが、祖父のことが頭に残っていたり、精神科病院の保護室を見学する機会があったこともあり、精神科病院に転職し、精神科ソーシャルワーカー(PSW)として働きました。

 

──在宅ケアに関わることになったのはどうしてですか。

大島 勤務先の精神科病院と同じ法人が認知症グループホームをもっていて、そこで2年ほど相談援助職としていろいろな経験をするうちに、「やっぱり家にいるのはすごくいいな」と思うようになりました。それで介護支援専門員の資格をとって現在の職場に移ったのです。


多職種による合同事例検討会で地域の課題を解決

――定山渓病院在宅ケアセンターはどのような地域にあるのですか。

大島 勤務先の病院には地域包括ケア病棟があったり、併設の訪問診療や訪問リハビリもあるのですが、病院のある札幌市南区は山間の地域もあってとても広く、訪問診療が届かなかったり、訪問介護のなり手がなかったりと医療や介護サービスが充実していないところも一部にはあります。

 

――そのような地域に特有の問題はどういったものですか。

大島 地域が広大なので地下鉄の通っていないところが多く、主要な移動手段は自家用車かバスになりますが最近ではバスの減便もあり、多くの高齢者が移動手段に困っている地区です。地区が広大なためタクシーも高額になるので利用を控えざるをえないというのも特色になるかもしれません。加えて、高齢や認知症を契機に運転免許証を返納する方も少なくなく、ケアマネジャーとして買い物や受診のための移動手段の代替案を協議、提案する機会は多いです。特に「受診するための移動手段がない」という課題を有している事例は、合同事例検討会でも多くあり、次第に地域の仲間と専門職としてこの地域課題に対して何かできることはないかと考えるようになりました。そこで、合同事例検討会から得た地域課題を具体的な地域住民の声、地域のケアマネジャーからの声として所属法人に問題提起し、そこから地域に「外来無料送迎サービス」という新たな社会資源が創設されることになりました。

 

――合同事例検討会というのは?

大島 以前から、事業所や法人の枠を越えて地域のケアマネジャーや医療職などによる合同事例検討会を開催しています。事例の解決策の検討に加え、この地域にはどういう問題があるのか、専門職としてどのようなことができるのかといったことも話し合っています。医療機関の医師や看護師、リハビリスタッフ、管理栄養士、医療ソーシャルワーカーなどにとっては、地域のことを知る機会になっています。医療機関のさまざまな専門職が地域につながるための環境づくりとして、合同事例検討会を定期的に行っているという側面もあります。そうしたなかでケアマネジャーが持っている個別のニーズや地域住民の声を医療機関に届け、医療機関が地域のなかで求められていることを提案するようにもしています。

 

――先程の外来無料送迎サービスはまさにそうした多職種の活動の成果ですね。

大島 ケアマネジャーからあげられた、住民が移動手段にすごく困っているという多くの声を医療機関に届けて、医療機関として地域貢献できることは何かと一緒になって考えていったところ、医療機関がチームを作って外来無料送迎バスを始めることにつながりました。

 

――地域で職種ごとにカンファレンスを行っているところはありますが、多職種合同というのが特徴ですね。

大島 ケアマネジャーだけでなく他の専門職も入ることで、お互いの価値観を知ることができ、少しずつ円滑に連携が促進されていったと感じています。これを継続してやっていくというのが地域にとっても私にとっても大事なことです。


合同事例検討会で壇上に立つ大島さん
合同事例検討会で壇上に立つ大島さん

利用者の決意を後押しするためにケアチームを牽引

――地域の多職種のカンファレンスによって地域の問題を解決していく一方で、個別の対象者へのケアではどうでしょうか。

大島 静岡県のソウルフード「さくらごはん」をご存知ですか。醤油と酒だけで炊き上げるご飯です。炊いている最中からすごくいい香りがして、静岡県では正月によく食べるし、給食にも出されるそうです。私が担当する90歳の女性の利用者が静岡県出身だったのですが、ご主人が亡くなり、自分も認知機能が低下していくなかで自分自身で台所に立つ機会がだんだん少なくなっていきました。家族や支援者も料理をすることを無理に勧めませんでした。

その一方で、私が訪問するなかで繰り返し「さくらごはん」の話をされました。夏は娘さんの弁当に入れたら美味しいと評判になって友達と取り合いになった、秋はご主人が山に行くときにはいつもつくってくれと頼まれた、正月には親戚が自分のさくらごはんを食べたいと集まって一升もつくったというように。私はその話を聞くうちに、この利用者がいつも誰かのために「さくらごはん」をつくってきたのに、今はその対象を失い、自信もなくしていることに気が付きました。それなら「さくらごはん」で誰かを喜ばせることができれば自信が戻るのではないかと思ったのです。

そのことをケアチームの他職種に話すと、娘さんが実家に来るタイミングに合わせてサプライズで「さくらごはん」をつくったらどうだろうとなり、本人に提案することになりました。すると、本人は「やってみる」と言い、目には決意を感じました。支援者というのは、本人に決意があるとスイッチが入ります。ヘルパーや訪問看護師はその日に向けて細かな調整を重ね、訪問リハは本人が台所に立てるようにリハビリ計画を立てるというように、関わる職種が目標に向かって連携しながら進めていきました。

当日、何も知らされていない娘さんが玄関を開けると「さくらごはん」の匂いがする。とても感動されて涙を流されました。「さくらごはん」を娘さんに盛り付ける利用者の姿は誇らしさにあふれた母親そのものでした。

 

――とても感動的なお話ですね。

大島 私の力だけではできませんでした。この利用者は私の訪問に合わせて今も「さくらごはん」をつくってくれます。


ケアマネジャーが自己効力感を得られることが重要

――大島さんは、ケアマネジャーとして在宅ケアにかかわるうえでのやりがいをどんなところに感じていますか。

大島 先程のケースもそうですが、在宅ケアでは「よかったね」と思える場面に立ち会えることが多いと思います。病院だと傷が治ってよかったね、退院したときによかったねということかもしれませんが、在宅だともっと小さな「よかったね」に数多く出会えます。たとえば、庭まで歩けてよかったね、トイレでできてよかったねといったことがたくさんあるのです。また、相談援助職のなかで家に訪問できるのはケアマネジャー以外にあまりないので、こうした経験は貴重だと感じています。居間に本人や家族の賞状やトロフィーが飾ってあったり、写真があったり、それらを見ることでその人が大事にしていることがわかって、こんなふうに生きてこられたんだと感じられます。いろいろな人生に触れ合えることが勉強になりますね。

 

――その一方で大変なことはどのようなことですか。

大島 書類の多さにはびっくりです。それはさておいても、今、ケアマネジャーは危機的な状況にあります。介護支援専門員試験の受験者数が激減しました。また、介護職員の報酬が処遇改善策などがあって増えているため、以前の仕事である介護職にもどっていくケアマネジャーもいます。このようなかで事業所としては求人を出しても応募者は少なく、ケアマネジャーが確保できないために閉鎖せざるを得ないところさえ出てきています。私が所属する日本ケアマネジメント学会でも白澤政和理事長が大会長を務める次の研究大会のテーマとしてこの問題を取り上げます。そこでは待遇改善だけでなく、ケアマネジャーが自らの仕事に自己効力感を得られることが重要と訴えています。そのためにはケアマネジメントの有効性を明らかにして自分の仕事に誇りを持てることが必要です。高齢者の自宅に行ってみたら障害を持っている子どもがいたり、ヤングケアラーの問題があったり、そうした場合にさまざまな調整をすることができるのがケアマネジャーなので、大事な職種なんです。

 

――日本ケアマネジメント学会の認定ケアマネジャーの会の理事をされていますね。

大島 認定ケアマネジャーは、資質の向上やケアマネジメントの専門性の追求、社会的地位の確立などを目指して日本ケアマネジメント学会が行っているものです。まだ1,500人弱なのですが、皆学びの歩みを止めないというか、専門職としての意識の高さが基盤にある人ばかりです。会としてはケアマネジメントを通じての地域貢献と、人材育成の2つを大切にしています。とくに現在、シニアケアマネジャーの育成に取り組んでいます。スーパービジョンを教えることができる人を全国で50人育てることが認定ケアマネジャーの会の目標のひとつです。

 

認定ケアマネジャーとして後進の育成にも心を砕く
認定ケアマネジャーとして後進の育成にも心を砕く

自然のなかでしがらみから離れて気分転換

――オフのこともお聞きしたいのですが、プライベートで楽しまれていることはありますか。

大島 学生時代からバスケットボールをやっています。大学生の頃はインカレ(全日本大学バスケットボール選手権大会)に出場したことがあります。

 

――今も続けているのですか。

大島 地域のクラブチームとしてやっています。メンバーは40歳以上、職業はバラバラで医療職の方もいて、週1回くらい練習しています。バスケットボール以外にはトレイルランニングもします。これは、普通の舗装した道とは違い林道や登山道、砂利道といった未舗装の道を走るスポーツです。

 

――北海道はトレイルランニングにはいい環境でしょうね。

大島 そうですね、自然に恵まれています。トレイルランニングは、普段の生活と完全に切り離れたところに身を置けるのがすごくいいですね。気分転換になります。仕事や生活上のいろいろなしがらみから離れて自然のなかを走っていると、なんでこんなちっぽけなことに悩んでいたんだろうと思います。

 

外界を離れ、あまりにも雄大な樽前山(日本二百名山)をひとり走る
外界を離れ、あまりにも雄大な樽前山(日本二百名山)をひとり走る

多職種のハブになるための心構え

――最後に大島さんが個人的に仕事に対して大事にしていることはどのようなことですか。

大島 ケアマネジャーは多くの人や職種と連携することから、依頼やお願いをすることが多い職種なんですね。だからこそ、感謝の気持を大事にしています。連携している人から報告や連絡をいただくことがありますが、そうしてもらうことが当たり前ではないと自分に言い聞かせて、感謝の気持ちを持って、それを言葉に出して伝えていくことを心がけています。ケアマネジャーは多職種のハブになる仕事なので、連携がうまくいくためにも必要と思っています。

 

――多職種の連合体としての日本在宅ケアアライアンスに期待することはありますか。

大島 このコーナーはいろいろな職種の方が登場するのですが、専門職としての側面だけでなく、人にフォーカスを当てて大切にしていることを浮彫りしていることが参考になります。今後も、多職種のハブというかつなぎ目として発展していただきたいと思います。

 

取材・文/坂 弘康